バビロン まで 何 マイル。 バビロンまで何マイル?

バビロンまで何マイル?

バビロン まで 何 マイル

『 バビロンまで何マイル? 』(バビロンまでなんマイル)は、『』に連載されたの。 単行本では1巻のみの発売(1991年)で未完状態であるが、文庫版(1997年)で完結まで刊行されている。 「バビロンまで何マイル」という語句はイギリスの古い 『』から取られている。 ストーリー [ ] 幼なじみの月森仁希と真船友理は、幼い頃に助けた変なおじいさんから、お礼として指輪をもらう。 それは、あらゆる動物や植物の話を理解することができる「」の改訂版であり、いつの時代、どこの国の言葉でも理解できるようになるという魔法の指輪だった。 さらに指輪にはができると言う機能がついていたが、それは完全にアトランダムであり、いつどこで発動するか、どの時代に飛ばされるか、いつ戻って来られるかは、本人にもわからないというとんでもない代物だった。 それにより二人は最初は、次はの時代へ飛ばされ、そこで起こる事件の目撃者となる。 後半はの生き様を描く歴史漫画になる。 内容はほぼの『チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷』をなぞる形になっている。 登場人物 [ ] 月森仁希(つきもり にき) 主人公。 高校3年生の女の子。 小さい頃こそ友理とをして遊んでいたが、父の過労による急死とそれに伴う会社の冷遇により、徹底したとなる。 高校では入学以来ずっと図書委員をしており、今では。 一度でもを利用したことのある人ならば必ず覚えているという。 母は化粧品の。 真船友理(まふね ゆうり) 主人公。 仁希の幼馴染の男の子。 父親は日本人だが、母方の先祖はを繰り返してきた家系で、もはや何人だかわからない状態になっている。 同級生に言わせると「地球を一周半している」「(先祖の)婚暦だけで世界史の年表ができる」一族。 仁希とウルトラマンごっこをしていた時はウルトラマン役を演じていた(仁希は役)。 高校ではを務め、フェンシングは高校総体で優勝するほどの腕前。 仁希と友理が時代のにタイムスリップした際、たまたまその場(教会)にいた女性。 教会で祈りを捧げていた時に、いきなり2人が中空から現れたため、彼らをと勘違いした。 チェーザレ・ボルジアの妹であり、兄の野望のための手駒としていいように扱われていた。 兄の仕打ちに嫌気が差して逃げ出したが、仁希と友理の2人に出会ってすぐ連れ戻されることになる。 運命に翻弄された哀しい女性。 実在の人物。 教皇の息子。 ボルジア家の実権を握り、イタリア統一のための策謀を巡らしている。 逃亡したルクレツィアを連れ戻すついでに、一緒にいた仁希と友理も連れてきた。 彼らを客人として遇するうちに仁希の語学力(指輪の力だが)や、友理の剣術に目をつけ、書記官や兵士としてスカウトする。 物語後半からの実質的な主役であり、仁希や友理は彼の人生の見届け人のような役となる。 グノーシス ファンタジーで語られる土の精霊。 2人が小さい頃遊んでいた裏の森の池で溺れていた。 それに気付いた2人によって助けられ、2人に「近いうちにお礼を持ってくる」と言って消える。 そして、12年経ってから再び彼らの前に姿を現し、助けてくれたお礼としてソロモンの指輪を渡した。 遅れた理由はちょっと世間話をしていたためらしい。 時間の経過が2人とは違うらしく、「ちょっと」のつもりが12年も遅れてしまった。 外部リンク [ ]• 文庫本情報.

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バビロンまでは何マイル 上 (創元推理文庫)

バビロン まで 何 マイル

『 バビロンまで何マイル? 』(バビロンまでなんマイル)は、『』に連載されたの。 単行本では1巻のみの発売(1991年)で未完状態であるが、文庫版(1997年)で完結まで刊行されている。 「バビロンまで何マイル」という語句はイギリスの古い 『』から取られている。 ストーリー [ ] 幼なじみの月森仁希と真船友理は、幼い頃に助けた変なおじいさんから、お礼として指輪をもらう。 それは、あらゆる動物や植物の話を理解することができる「」の改訂版であり、いつの時代、どこの国の言葉でも理解できるようになるという魔法の指輪だった。 さらに指輪にはができると言う機能がついていたが、それは完全にアトランダムであり、いつどこで発動するか、どの時代に飛ばされるか、いつ戻って来られるかは、本人にもわからないというとんでもない代物だった。 それにより二人は最初は、次はの時代へ飛ばされ、そこで起こる事件の目撃者となる。 後半はの生き様を描く歴史漫画になる。 内容はほぼの『チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷』をなぞる形になっている。 登場人物 [ ] 月森仁希(つきもり にき) 主人公。 高校3年生の女の子。 小さい頃こそ友理とをして遊んでいたが、父の過労による急死とそれに伴う会社の冷遇により、徹底したとなる。 高校では入学以来ずっと図書委員をしており、今では。 一度でもを利用したことのある人ならば必ず覚えているという。 母は化粧品の。 真船友理(まふね ゆうり) 主人公。 仁希の幼馴染の男の子。 父親は日本人だが、母方の先祖はを繰り返してきた家系で、もはや何人だかわからない状態になっている。 同級生に言わせると「地球を一周半している」「(先祖の)婚暦だけで世界史の年表ができる」一族。 仁希とウルトラマンごっこをしていた時はウルトラマン役を演じていた(仁希は役)。 高校ではを務め、フェンシングは高校総体で優勝するほどの腕前。 仁希と友理が時代のにタイムスリップした際、たまたまその場(教会)にいた女性。 教会で祈りを捧げていた時に、いきなり2人が中空から現れたため、彼らをと勘違いした。 チェーザレ・ボルジアの妹であり、兄の野望のための手駒としていいように扱われていた。 兄の仕打ちに嫌気が差して逃げ出したが、仁希と友理の2人に出会ってすぐ連れ戻されることになる。 運命に翻弄された哀しい女性。 実在の人物。 教皇の息子。 ボルジア家の実権を握り、イタリア統一のための策謀を巡らしている。 逃亡したルクレツィアを連れ戻すついでに、一緒にいた仁希と友理も連れてきた。 彼らを客人として遇するうちに仁希の語学力(指輪の力だが)や、友理の剣術に目をつけ、書記官や兵士としてスカウトする。 物語後半からの実質的な主役であり、仁希や友理は彼の人生の見届け人のような役となる。 グノーシス ファンタジーで語られる土の精霊。 2人が小さい頃遊んでいた裏の森の池で溺れていた。 それに気付いた2人によって助けられ、2人に「近いうちにお礼を持ってくる」と言って消える。 そして、12年経ってから再び彼らの前に姿を現し、助けてくれたお礼としてソロモンの指輪を渡した。 遅れた理由はちょっと世間話をしていたためらしい。 時間の経過が2人とは違うらしく、「ちょっと」のつもりが12年も遅れてしまった。 外部リンク [ ]• 文庫本情報.

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バビロンまでは何マイル 上 (創元推理文庫)

バビロン まで 何 マイル

Fateにはまりまくった挙句にとうとう書いてしまいました。 言ギルです。 本番はありませんがやることやってる設定です。 ご注意! ギルが綺礼君をからかって遊ぶお話です多分。 やたらとバビロン連呼してますが、厳密にはバビロンはギルの国じゃありませんね多分。 ギルはウルクの王様でありバビロンの王様じゃないですよね。 でもゲートオブ『バビロン』だしいいですよね。 バビロニアには浪漫がありますね。 どうでもいいけど私の最初のバビロン体験は昔テレビで見たルパン三世シリーズの『バビロンの黄金伝説』です。 表題のマザーグースのことも確かそれで覚えて、古代バビロニアとか黄金とかその辺のモチーフに妙に神秘的かつ薄気味悪いイメージを抱いてしまった結果のこのお話です。 あとギルはギルガメシュということはシュメール人なんだろうなって思ってます。 シュメール人にも浪漫がありますね。 ギルには古代の浪漫が濃縮されていますね。 さっきから浪漫しか言ってないですね。 浪漫、浪漫ですね。 How many miles is it to Babylon? Threescore miles and ten. Can I get there by candle-light? Yes, and back again! If your heels are nimble and light, You may get there by candle-light. 唄が聞こえる。 教会の奥の、広くも狭くもない部屋の壁に誂えられたテレビから幼女の声色が垂れ流され歌っている。 そこは一般の家庭のそれと何ら変わりない、俗世間じみたリビングだった。 白い壁紙とカーペット敷きの床、灰色のソファとクッション、その他諸々のありふれた調度品、教会という神域もまた人間が生活する俗世の一部に過ぎない。 今日は父は居ないのだった。 How many miles is it to Babylon? それは、比較的有名な類に入るマザーグースの一節だ。 歌声にうっかりと足を止めてしまった綺礼だがすぐに音声は途切れ、別のチャンネルに切り替わってしまう。 リモコンの現在の持ち主にとって、マザーグースは退屈だったようだ。 午後のニュースはいつも通り、八割の悪報と一割の吉報、残り一割の混沌から出来ていた。 物珍しそうにリモコンをいじる手がまたすぐにチャンネルを変えてしまいそうなのを見て、関与しないように気を使っていたのも忘れて思わず口を開く。 「変えないで欲しい」 チャンネルは、変わらなかった。 硬い表情の女性アナウンサーが近頃多発している児童失踪事件の続報を語る。 捜査は何も進展していないようだった。 いなくなった児童を知る者が加工された音声で嘆きを語る。 浚われた子どもたちがどうなっているのか、彼らはまだ知らないが、何となく想像はしているのだろう。 「嬉しそうだなァ綺礼」 突如、意識に割り込んできた声に綺礼は顔面を強ばらせた。 ソファの上、リモコンを握ったままにやにやと笑う古の英雄と視線がかち合う。 純金製と思しき悪趣味な装飾品が彼の仕草に合わせて小さく音を立てた。 小首を傾げてこちらを見上げる表情に貼り付いた笑みは、不快感しか与えない。 「…そう思ったなら、それはお前の勘違いだ、アーチャー」 「そうかな?」 また画面が変わる。 別のチャンネルでも報道されている情報に大した違いはなかった。 知らず、ブラウン管に視線を投げてしまった自分に綺礼は気付き、すぐにまた眼下の英雄王に視線を移す。 彼はじっと綺礼を見上げ、その出自の分からぬ赤い眼を興味本位に揺らめかせていた。 「…見ないのなら電源を切れ」 探るような視線から自身を逸らしたくてそんなことを言ってしまう。 それから首を傾げ、手にしたリモコンを適当にいじった。 途端、部屋の窓がびりびりと音を立てるほどの大音量がリビングを圧迫し、互いにびくりと肩が跳ねる。 溜息を吐き、視線を落とせば彼は突然の爆音によほど驚いたのか、金の髪を文字通り逆立てて固まっていた。 「扱い切れない道具を無闇に弄くり回すな」 相手の戦闘スタイルそのものを揶揄するような台詞を投げて、王の手にリモコンを戻した。 ここを押せば止まる、とだけ教えて綺礼はそのまま部屋を出る。 僅かに下がった溜飲に関しては、些細なことと切り捨てた。 かの王は人種の特定しにくい外見をしている。 金の髪はコーカソイドの特徴であるかのように思われるが、異なるのは色合いくらいで、顔立ちや骨格はむしろモンゴロイドのそれに通じるような気もした。 しかしその辺りの日本人と比較すればやはりその顔立ちや骨格は同種とは判断し難く、色素の薄い体毛も、同じく金髪である衛宮切継のサーヴァントと並べた瞬間に「違う」と思わせるだけの何かがあった。 セイバーの髪色はブロンドと呼んで差し支えないが、しかしこの男の髪にその形容は当てはまらないような気がしてならない。 外国人である、と言えばたいていの人間はそれで信じたが、単に髪を染めただけの日本人の若者だと説明しても疑う者はいなかった。 外国人との混血であるという説明も同様だ。 案外、アルビノの日本人だと言っても皆それで納得するのではないか。 外国人であるという説明が最も差し障りのないものであったが、しかしどこの出身かを特定して話すと訝しげな顔をされるのが常だった。 どこにでもいそうだが、しかしあそこには存在しそうにない容貌。 「あそこ」には世界中のあらゆる地名が代入される。 どこにも居てどこにも居ない男。 彼は何にも分類出来ない。 そもそもモンゴロイドやコーカソイド、或いはネグロイド、オーストラロイド…そんな線引きすら関係のない血が彼の中には流れているのかもしれない。 シュメール人の民族系統は不明だ。 不明というのは明らかになっていないという意味で、何にも分類出来ないという意味ではないのだと思っていたが、案外本当に分類不可能なのかもしれない。 彼を学者に引き合わせたら、きっと大喜びでその身体を検分するのだろう。 彼の全ては失われたもので出来ていた。 彼の財、彼の国、彼の力、そして彼自身、その肉体に至るまで全てもはやこの世界には存在せず、同時にどこにでも存在する。 彼の全ては源流として世界の至る所に潜んでいる。 現代から数えてざっと四六〇〇年前、ユーフラテス川の畔にかつて存在した古の王国、彼はそこからやって来たのだ。 しかし、綺礼の心にはそれとは異なるもう一つのヴィジョンがあった。 キリスト者であるなら誰もが知る、罪悪に溺れた国の名だ。 How many miles is it to Babylon? 幼女の声が頭蓋に反響する。 それは昼間に聞いたものより些か大人びた誇張をされ、伸びやかに鼓膜を叩いていた。 きっと美しい歌声なのだろう、そう思いながら踏み出した革靴の下で神世の時代の草が柔らかくひしゃげていく。 空は透き通るように青く、手を伸ばせば届きそうなほどに近かった。 息苦しいほどに濃厚な大気、吹き抜ける風からは生臭く肥沃な土と泥の匂いがした。 射す陽の光は黄金色で、それは世界の至るところで乱反射を繰り返し、大気にすら微かな黄金の輝きを与えて降り注いでいる。 豊穣の土地に相応しい有様だった。 踏み出した足の行く末はやがてなだらかな丘を越え、大きな川の畔に佇む都へと向かう。 道など分からなかったが、知っていようがいまいが同じだと分かっていた。 全ての道はローマに通ず、などという諺があるように、この時代の道は全てこの先の都に繋がっているはずだ。 むしろ真なる起源はローマなどではなく、この先の都だ。 少なくとも、都の主はそう信じているだろう。 柔らかい草はやがて踏み固められた土となって姿を消し、日干し煉瓦の都市が姿を現す。 四角い家々の隙間を鳥が飛び、羽音を鳴らし囀りながら啄む、食い破られた果実の臭い。 イチジク、洋ナシ、ナツメヤシなどの籠が通りに並ぶ店の軒先に置かれ、また別の店には繋がれた雄牛やロバが佇んでいた。 人々はゆったりとした麻の布で肌を覆い、裸足もしくはサンダルの足音をぺたぺたと鳴らしている。 交わされる言葉はまるで綺礼には分からない独特の言語だ。 How many miles is it to Babylon? (バビロンまで何マイル?) 鼓膜の上で、ずっとあの幼女の声が踊り続けている。 行き交う人々は誰も綺礼の姿になど目を留めない。 露出のない黒いカソックは温暖な風に甚だ不釣り合いであったし、首から下がる十字架はこの時代、何の意味もないものだった。 それでも、生臭い風に包まれながら縋るように胸元の十字を握る。 記号としてすら意味を持たないものを寄る辺に、祝福され、後に呪われる都を歩く。 日干し煉瓦を固めて作られた神殿の壁に光が射し、壁に刻まれた陰影をくっきりと浮かび上がらせながら黄金色にキラキラと輝いていた。 背中を押されるような気持ちで足を踏み出し、誰にも咎められずに神殿の上に至る階段に足をかける。 歩く度、天に近付いていく身体に不快感を得て何度か立ち止まり、振り返る度に見える都市の顔がまた背中を押した。 折り重なる日干し煉瓦の屋根の合間には、ユーフラテス川からの用水路が編み目のように絡み合い、城壁を越えて都市の彼方に見える耕作地まで伸びている。 広々と輝く広野の、果ての果てまで遍く太陽が地を照らして、確かにこの土地は祝福されているのだ。 場違いな異教の装いに身を浸した綺礼は、一人階段を上がっていく。 やがて長い階段を登り切り顔を上げた先には、この都市と神殿の主が自慢げに笑って立っていた。 髪の色は刈り取られる直前の麦の穂に似ていた、肌の光沢は磨かれた象牙のように滑らかで、逆光に沈む虹彩の色は熟れた柘榴のように赤い。 自分は、これらを総括する最も端的な言葉を知っている。 しかしどうしても口に出すことが出来ないでいるのだ。 最古の英雄は、困惑する綺礼の表情へ実に満足そうな目を向けた。 「どうだ綺礼? これが我が都だ」 常の装いとは異なる、白い麻の布を身体に巻き付けたような、その程度の格好で大仰に両腕を広げて彼は笑う。 首元や手首についた金の装飾品が音を立てて揺れた。 そのままくるりと背を向けて歩き出す彼の後に続き、綺礼はとうとう神殿の中に入る。 そこは邪神の住まう場所だった。 生贄の祭壇、聖なる娼婦、聞くに耐えぬ異教の神々の名前。 生臭い、あまりに生臭いそれらが次々と五感を襲い、そのたびに胸元の十字を握り締めたが何の意味もない。 「そんなもの、無駄だ」 王もまた上機嫌に笑った。 「貴様の神など誰も知らん」 その通りだ。 まだ生まれていないのだ。 綺礼の神が生を受けるまで、この時代からあと何千年待たなければならないのだろう。 綺礼の神の前身となったユダヤの神々ですら、まだ存在していない。 何もなかった。 綺礼が普段拠り所とし、縋っているものはここには何一つ存在しない。 前を歩く王の背に光が当たり、剥き出しの滑らかな背中を舐めてはまた陰の中に消えていく。 しゃらしゃらしゃらしゃら、彼の体中にぶら下がって揺れる装飾品が変に耳に障る音を立てている。 彼は裸足だった。 長い麻の衣装の隙間から僅かに赤く色付いた踵がちらちらと見え隠れしている。 彼の神殿の中にはあらゆる財があった。 剣、槍、盾、杯、石、鎖、得体の知れぬ道具、刻まれた粘土板。 きっと後世には名だたる宝具として名を馳せることになる逸品ばかりなのだろう。 いくらでも好きに触ってもいいと王は言ったが、別に触れたいとは思わない。 果実の臭い、立ち上る香木の煙、むせかえる泥の臭い。 生の奔流に頭蓋の奥が痛む。 そこまでしなくてもいいと思う。 そこまで豪奢にならずとも、そこまで秀でずとも、余剰でなくとも、芳醇でなくとも。 そういった過剰を何と呼ぶのか、分かっているはずなのに自分には分からない。 自分の感性は生まれ乍に死んでいるのだ。 神殿の一角、王の部屋には獅子が微睡んでいた。 金の椅子に身を預ける獅子が喉を鳴らす音が地響きのように足下を揺らす。 前を歩く王は立ち止まり、腕を擡げて神殿の外に見える地平を指さした。 装飾品が鳴る、剥き出しの皮膚の下で編まれた筋肉が動く。 「あの城壁は我が造らせたものだ」 都市のぐるりを囲む日干しれんがの壁を見て綺礼は眼を細める。 陽に照らされた壁は神殿のそれと同じように輝いて見えた。 あの城壁の存在は、一応知っている。 彼は彼の都と民を夷狄から守るためにあの城壁を建築させたのだ。 けれどもだからと言ってどうしてこんなに、何もかも眼に痛く輝いているのか、尋ねたいと思ったが言葉が出なかった。 綺礼はその時、ひどく静かに絶望していた。 獅子のまどろみが足下を揺らす。 低いささやきが鼓膜を打った。 「貴様を王の客と認めてやろう。 何でも持ち帰ることを許そう。 好きに手を伸ばすがよい」 不幸だ、不幸だ。 鼓膜に響くのは父の声だ。 否、それは神学校の教師の声だったかもしれない。 唐突に聞こえる声が唱う言葉を綺礼は知っていた。 不幸だ、不幸だ、大いなる都、 強大な都バビロン、 お前は、ひとときの間に裁かれた。 ヨハネの黙示録の一節だ。 キリスト者である綺礼にとって、バビロンと言えば何よりもまずこの一節だった。 彼の都の名は、討ち滅ぼされる堕落の都の名だ。 空は青いままだ。 滅びの気配など微塵もない。 「あの門が見えるか綺礼」 古の王の、長い指が城壁に空いた門を指す。 「あの門こそ我と我が友エルキドゥの武勇の証。 フワワを倒し持ち帰った神木で誂えた門よ。 何でも、とは先ほど申した言葉だが、流石にアレだけは持ち出しを許可するわけにはいかん」 そう言って指された門はラピスラズリの門扉に柱が埋め込まれ、都市の果てに輝いていた。 掴んだら折れそうな指がくるくると動く。 王の演説は耳に入らず、綺礼はただじっと、彼の背中の皮膚を見た。 始終陽に晒されているはずなのに、その色は現代と些かも変わりがない。 どこからか飛んで来たらしい花びらが肩口にとまっている。 好きに手を伸ばせと言ったのは彼だ。 自分より幾分か下の位置にある腰に、両手を伸ばして触れた。 陽光にあてられた肌は熱く、磨かれた石のように滑らかだった。 その腰骨の辺りの骨格は、通常の人間のものとは僅かに異なっているようだった。 見た目が変わっている訳ではないので気付かれることもないのだろうが、治療魔術に長けた綺礼には何となくそれが分かった。 彼の骨はほんの少しだけ、現代人より数が多い。 それは彼の民族的特性のためか、それとも彼の中に流れているという神の血のせいか。 一つ、息を吐いて両手をずらす。 なだらかな隆線を描く背骨にそってじりじりと撫でる位置を上げていくが、肩胛骨に引っかかって指は止まった。 その骨に添って指をなぞらせ、別段何の力も込めず、ゆったりと背を覆う翼のような骨を両手で覆う。 この土地の神には、翼は生えないのだろうか。 ふと視線を上げれば王がにやにやと笑ってこちらを見上げていた。 僅かに捻れた首筋に指を添わせ、片手には足りぬが両手には余る…背より更に滑らかな首筋に指を巻き付ける。 王は嫌がる様子もない。 「大した慧眼だな綺礼…好きに手を伸ばせとは言ったが、真っ先に我に手を伸ばすか」 「…そうだな」 腕を引く。 微かに指が髪に触れて、さらりと揺れた一瞬に蕩けるような香りが鼻先を掠める。 頭が酷く痛み、絶望に視界が染まった。 歌が聞こえる。 How many miles is it to Babylon? そしてその幼女の声をかき消すようにだらだらと抑揚なく響く、徐々に響きを増すもう一つの声。 聖書を読む父と師の声だ。 倒れた。 大バビロンが倒れた。 そして、そこは悪霊どもの住みか、 あらゆる汚れた霊の巣窟、 あらゆる汚れた鳥の巣窟、 あやゆる汚れた忌まわしい獣の巣窟となった。 バビロンとはローマ帝国を暗示するというのが研究者の間で信じられている定説だ。 しかし、それが実際何に準えられているかなど問題ではない。 ローマなど問題ではない。 先にあったのはバビロンだ。 バビロンは、そういう都なのだ。 かつて我々の始祖を捕らえ、虜囚のように閉じ込めた邪神の都だ。 繁栄、虚飾、淫楽、退廃、無意味な美、全ての堕落を詰め合わせた邪悪の象徴なのだ。 だというのに、その都市を前にしても何ら感じ入る所のない自分がいるのに綺礼は気付いていた。 ここは悪徳の都だったはずだ、神の教えとは真反対の悪徳がひしめいているはずだった。 それは確かにその通りであるのに、自分はそれを見ても何一つ思うところがないのだ。 言峰綺礼が冒涜者であるなら、人の皮を被った獣であるなら、神の教えの対極にあるこの都市に何らかの美や愉悦を感じるはずだ、しかし実際はそうではない、綺礼の精神は凪いだままだった。 何の同調も感じ得ないのだ。 楽園にも地獄にも身の置き所がない。 煉獄に落ちて一時の責め苦を与えられた所で、天国の梯子に至る魂を自分は持ち合わせないだろう。 どうすれば。 どう生きたら、 「滑稽だなァ、綺礼」 王の視線がこちらを見ている。 気付けば、その首に絡めた両指に力を入れていた。 目を開けて、顔を上げた。 淡く光る電灯に照らされた机が眼に入り、綺礼は自らがうたた寝の隙間に夢を見ていたのだと悟った。 広げた手は爪の痕が食い込むほど握り締められていたし、首筋や背筋をだらだらと伝う汗はやけに冷たい。 夢で見たのと同じ男が食器棚の前に立っていた。 「今の夢は…お前の仕業か、アーチャー」 彼はちらりとこちらに視線を寄越して笑った。 「だとしたらどうする?」 「……あれがお前の国か」 不幸だ、不幸だ、大いなる都、 強大な都バビロン、 お前は、ひとときの間に裁かれた。 「愉悦を知らぬお前に、我が宝を教えてやろうと思ってな」 ぱたん、と音がする。 食器棚の戸が閉じられた。 我が真なる宝物庫には、あの数千、数万倍の宝具が並んでいる。 貴様はろくに見もしなかったがな」 「…見せたかったものはそれではないだろう」 蛇のように細い瞳孔がきゅうと縮む。 綺礼は立ち上がり、金の王の佇む場所へと歩みを進めた。 そして、彼の手に握られていた酒のボトルを引き抜いてそのラベルをじっと見つめる。 「お前の国にもこの酒はあったのか」 「無論。 とは言え、酒造技術は現代と比べるべくもない。 我が記憶の中の美酒はいずれも、何らかの魔力によって仕上げられたものだ。 故に美味い。 故に、現代の安酒など飲めたものではない。 綺礼の分のグラスも用意してやろうというのだろうが、生憎綺礼は酒を飲むような気分ではなかった。 握っていた酒を落とす。 酒瓶は割れることなく落下し、木の床に小さな傷を付けて転がっていく。 ちゃぷちゃぷと液体が空回る音を聞きながら綺礼は自由になった両手を王の腰元に添えた。 夢の中では陽に晒されるばかりだったそこは今はもう冷たく、滑らかな絹の布に隠されている。 彼は身につけるものとして、絹を殊更好んだ。 滑るような肌触りが素晴らしいという。 絹は彼の国にはまだ入って来なかったのだそうだ。 しかしその絹さえ潜ってしまえば、異なるのはそれくらいでその他はまるで夢と同じ肌をしていた。 指に貼り付くようだが、力を込めれば抗うような弾力でもって抵抗する、処女の如き肌。 ゆっくりと唇を寄せた髪は彼がほめそやした絹の糸のように細く柔らかい、この髪で織った布はさぞ素晴らしい光沢を放つだろう。 息を吸い込んだ鼻孔に、吸い込むだけで脳髄が爛れるような、狂い立つような乳香の香りが入り込む。 彼は完璧だった。 人よりむしろ神に近い肉体は触れば触るほど、見つめれば見つめるほどに完全だった。 腰に触れていた掌を脇から胸に滑らせても、彼が許すままに抱き寄せても、首筋を這う掌で彼の顔面を撫でさすっても、彼の造形は非の打ち所もなく完全だった。 吐いた息が熱く曇り、食器棚のガラスに白い靄をかける。 薄く映った彼の姿が、薄い唇に嘲笑に似た歪みを張り付けているのが見えた。 それすら無罪だった。 彼のようなものをなんと言うか、綺礼は識っていた。 美しいと言うのだ。 これは美だ。 彼は美しいのだ。 美という概念に対して、綺礼は人並み以上の知識を有している。 感覚ではない、理性の瞳で彼はそれを理解していた。 美しいと言われるものが持つ外見の整いと歪み、その絶妙な配分から、彼は衆人と同じように美しいものとそうでないものを見分けていた。 ただそれは、感性を置き去りにした場合の話だ。 綺礼の感性は、目の前の男を何とも思っていなかった。 美しいことは分かる、理解出来る。 しかしそれを感じることはなかった。 綺礼の感性にとっては、理性が完璧と判断した目の前の王の身体もただの動く肉塊と変わらなかった。 触れても抱いても何もない、何一つ感じない。 「恥じることではない」 王の嘲笑が耳に刺さる。 「他人の美意識など棄てろ。 お前が感じたことだけが全てだ」 彼は、理解しているのだろうか。 唐突に胸を刺した衝動のまま、夢と同じようにかの王の首筋に絡めた指に力を込めた。 は、と消え入るような声が上がり、彼は食器棚に両手をついた。 みちみちと音を立て、ねじ切らんばかりに指は首を絞め続けている。 いっそ絞め殺してしまえ、そんな風に考える。 否、そもそも彼は自分に抵抗はしないだろう。 ぎりぎりと絞める指先に、ぬるついた液体が垂れ落ちる。 絞められながら唾液を垂らす王の姿が目の前の硝子に映っている。 あれは、自分だ。 綺礼自身だ。 違うッ!」 腕を放した。 途端、王の身体は糸の切れた人形のように崩れ落ち、かろうじて昏倒は免れたような形で棚に両手を預けてどうにか身体を支えている。 その白い首に残るくっきりとした痣に背筋が凍った。 こんなことがしたかったわけではない。 「先の夢といいこれといい、いい顔を見せてくれるではないか。 好いぞ、その表情に免じて無礼を許そう」 「黙れ、魔性めが…!」 呻き、彼の身体を硝子の棚に押し付ける。 が、それはまた別の意味で自身を追いつめる結果にしかならなかった。 腕は振り払われ、彼がこちらを向いてしまう。 そのまま王はうっすらと笑みを浮かべ、腕を伸ばして綺礼の身体に触れた。 触るなと喚くより先に股間を掴まれて動きを止めてしまったのは、そこが堅く張りつめていることを知られた瞬間の羞恥心が矜持も意地も何もかも押し流してしまったためだ。 顔が赤いぞ」 王が笑う。 してもいい、と笑う。 王は、夢の中ではちゃんと嫌がったのだった。 苦しみ、もがく彼を笑って見下ろしながら自分は彼が死ぬまで指の力を緩めなかった。 財も栄誉も権力も、何もかもが絶頂にある男から全てを奪う快楽、全から無に落ちる時の絶望。 死にたくないと叫ぶ、声にならぬ断末魔に背筋が震えたのだ。 彼は、美しかった。 死にゆく彼は。 彼の唇が音もなく動くのが、友の名、親の名、部下の名、或いは民草の名を呼んで震えるのが美しかった。 目尻からこぼれる涙が、鼻孔から流れ出た血が、充血した眼球が、徐々に変色していく肌の色が、全て耐え難いほどに美しかった。 息が止まりそうだった。 美しかったのだ。 「もう一度、やりたいとは思わぬか?」 頭が痛い。 自分の取り澄ました顔にも飽き飽きしていた所だ。 お前が我を縊り殺すのは、中々愉しいものがあったぞ」 それはそうだろう、あの時の彼は、気が触れそうなほど美しかった。 腕を伸ばす。 剥き出しの首筋はさぁ掴んでみろと言わんばかりに無防備だ。 掴んで、引き寄せる。 絞められるとばかり思っていたのだろう、僅かに虚を突かれたような表情を見せる男の唇に唇を重ね、首筋から腕を放してその身体を抱き締めた。 乳香と血の匂い。 気付けば彼の首筋に歯を立てている。 軋む肋骨の音に喉が鳴った。 殺してはならないと、残った理性をありったけはたいて自制する。 彼は師のサーヴァントだ、彼はまだ必要な駒だ、師の望む大聖杯に必要な最後のパズルのピースだ、その瞬間まで彼を殺してはならない。 彼がそれを許可しないだろう。 許すなどと言っているのは、きっと口だけだ。 本当に殺されそうになったら、彼はきっと自分を殺す。 肩口に痛みが走る。 噛まれたのだと理解して、思考が塗りつぶされそうな快感が頭から指先までを貫く。 互いに喰らい合うように歯を立てて時間が止まった。 人間の思考が止まった。 後に残るのは、欲の概念しか持ち合わせぬ獣の思考だ。 背中に爪を立て、立てられ、縋り、縋られ、首筋を噛んでいた唇をどちらともなく合わせて呼吸を塞ぐ。 彼の身体を運ぶのに綺礼はさしたる労苦を見出さなかった。 王が求めるまま、奴隷のようにその身体を抱え上げる。 奥の寝室に入り、寝台の上に転がしてその身体の上に乗り上げた。 衣服に腕を入れる。 互いに腕を伸ばし、互いを覆う邪魔なパーツを外してしまう。 剥き出された肌同士が幽かに汗ばんで擦れる感触は総毛立つほどにおぞましく心地好い。 今確かに、綺礼は目の前の男を心底美しいと感じていた。 夢を視た。 生まれてこの方目にしたことがないほどにサイケデリックな、極彩色の悪夢だ。 目の前に、日干しれんがの都市が広がっている。 空には暗雲と光が立ちこめ、鳥のような声を上げて天使の群が舞い飛んでいる。 聞こえるのは苦悶の呻き、祝福の笑い声、神を讃える言葉と、真反対の冒涜。 人々は逃げまどっていた。 或いは正しい者たちは、神を讃えて祈り耽っていた。 綺礼はそれを、都市の近くにある荒れ野から見下ろしていた。 天使が舞う。 天使が飛ぶ。 鳥の胴から人の身体が生えたような姿で、透き通った声で神を讃えてさえずっている。 然り、全能者である神、主よ、 あなたの裁きは真実で正しい。 悲鳴、悲鳴、悲鳴だ。 地には病が蔓延り、海と川の水は血に変わり、天は人間を火で焼き、獣が地を這いまわり、あらゆる天変地異で都市は引き裂かれる。 ぐちゃぐちゃに壊れていく光景の中、天使たちの羽鳴りの音が虫のようにけたたましく鳴り響いていた。 ヨハネ黙示録だ。 バビロンであり、また古代ローマでもある偶像の都市が神の怒りに触れて遂に滅ぼされ、崩壊するさまだ。 あらゆる堕落を極めた都市が滅ぼうとしている。 整った街並みは崩れ、川の水は色を変え、実っていたはずの草木が枯れ落ちる。 遂に、バビロンの大淫婦が現れた。 紫と赤の衣を纏い、金と宝石と真珠で身を彩り、巨大な神殿に座して笑う女はかの王と同じ顔をしていた。 否、それは女ですらなかった。 あれは王だ、英雄王ギルガメッシュそのものだ。 彼は全身を覆う装飾品を煌めかせて笑っている。 滅亡が何だ、それがどうしたと笑っている。 巨大な王は崩れゆく大神殿にもたれ掛かるように身体を預け、手にした金の杯にありとあらゆる汚れを満たして実に愉しそうに笑っていた。 神を讃えないもので、今ここで笑っているのは彼だけだ。 そして、この続きがどうなるか。 綺礼は既にそれを知っていた。 それゆえ、一日のうちに、さまざまの災いが、 死と悲しみと飢えとが彼女を襲う。 また、彼女は火で焼かれる。 彼女を裁く神は、 力ある主だからである。 けれども、大淫婦は笑う。 そんなことはごく当たり前のことだ、と。 生と死、快楽と苦痛、繁栄には滅亡もまた必定。 空前絶後の大繁栄には必ずそれに釣り合うだけの大滅亡が与えられるものだ。 故にこの顛末もまた当然の結果であり、神罰など後付けの理由でしかない。 そこまで内包しての繁栄だ。 死を内包してこその生、醜を内包してこその美。 そんなことは最初から分かっていたではないか。 「美しいもの」を識ろうとした折に、美しいものには必ず何らかの歪みが見られるのだと分かっていた。 美の中に含まれた芥子粒ほどの醜、それこそが「美しいもの」の正体だ。 全きものを、人は美しいと呼ばない。 人が美しいと言うものは、常に真円ではなく楕円なのだ。 綺礼はかつての繁栄を知っている。 その一時に比べれば、この滅亡など一瞬の苦しみに過ぎないのだと。 故の生、故の美、故の悦。 この都市は滅ぶべき都市だ。 けれどもそれは神の教えに背いた故ではない、そうなった方が美しいからだ。 滅びゆく都は美しく、笑いながら死んでいく王もまた美しかった。 美しかったのだ。 How many miles to Babylon? (バビロンまで何マイル?) Threescore miles and ten. (60マイルと10マイル) Can I get there by candle-light? (ろうそく灯して行けるかしら?) Yes, and back again. (行って戻って来られるよ) If your heels are nimble and light, (君の足が早いなら) You may get there by candle-light. (ろうそく灯して行けるよきっと) 寝台の上、小さな歌声が聞こえた。 先ほど夢の中で滅び去ったはずの王が口ずさむ歌だ。 「蝋燭すらも要らない様子だったな?」 平然とした声で問われる。 夢の中で自分がどのような目に遭ったか知らないわけではないだろうに、彼はまるで気にしていない素振りだった。 「あの夢は…本当にあった過去か?」 「まさか」 王が笑う。 「あれはお前たちの神の所業、我が治世の時代には早すぎるな。 だが歴史は遡って改竄される。 お前たちがそう信じ続けたというのなら、いずれ真実にも化けよう」 背を向けた彼の肩が笑うように小さく震える。 「では、お前はあれを経験していないのか」 「先ほど夢の中で知った。 お前の妄想は中々に高純度だ」 そう言ってから、頭の下に敷いたこちらの腕に頬を擦り付けるようにして笑う。 「不滅の身となってから、妙に滅亡を恋しく思う時があってな…」 彼は、今までになく上機嫌だった。 彼の首筋には深い爪と歯の痕がある。 その他にも、全身くまなく何らかの薄い傷を負っていた。 にもかかわらず、この機嫌だ。 下手人が誰かなど言うまでもないのだが、それを咎める気は全くないらしい。 この傷は目立つ。 師に悟られてしまう。 「治してしまうのか?」 磨かれたように滑らかな爪を伸ばし、猫が伸びをするようにシーツを掻きながら王は笑う。 「見せてやればよい。 時臣の顔はきっと見物だぞ…」 さして興味もなさそうに笑うが、そう言ってこちらを振り返った時の眼は本気だった。 それは、知られてはならないことだ。 自身が御し切れずにいるサーヴァントが足繁く弟子の元に通い、あまつさえその弟子と淫行に耽っていると知ったら、師はどんな顔をするだろうか。 「……馬鹿馬鹿しい」 心に浮かんだ誘惑を打ち消し、綺礼は王の身体に指を這わせてゆっくりと、機嫌を損ねれば殺される奴隷のように丁寧に彼の身体を治療していった。 つまらんつまらんと繰り返して嫌がる王を引き寄せ、こめかみや首筋に唇を降らせながらどうにかその身体をまた磨き上げ、つるりとまっさらな背中を見て一つ息を吐く。 「あまり、子どものような理由で時臣師を困らせるな」 綺礼は、時臣を嫌っているわけではないのだ。 むしろ感情としてはその逆に近いだろう。 彼の成熟した精神は父のそれに似ていた。 父を嫌っていないのに彼を嫌う道理などない。 サーヴァントが遊び回って帰って来ないだとか、言いつけを守らないだとか、これでは反抗期の子どもを持つ親の悩みと大差ない。 師は、そんな些事に気を惑わせる必要はないのだ。 綺礼がこのサーヴァントと関係を持っているのも、偏に師の労苦を思えばこそだ。 時臣には反抗的だが綺礼がこうして機嫌を取る分にはそれなりに言うことも聞くようであるし、それなら少し脚を開かせるぐらいは労力の一つとして捉える、それぐらいの気持ちでやっていた。 綺礼は別段、あの師を嫌っているわけではないのだ。 どんな顔をするかなど、気にしてどうなる。 鼻を鳴らして王が唇を尖らせた。 「時臣め…放任を是とすれば余計な詮索に気を煩わせることもないものを」 「時臣師は、お前と違って本気なのだ。 この戦争にな」 「ではお前はどうなのだ、綺礼」 肩越しに僅かに振り返った王の視線をやり過ごし、綺礼は首を竦める。 「私にとっては全てが成り行き任せだ…私如きが本気などと口に出せば、師のそれに値する言葉がなくなってしまう」 「まだ言うか」 僅かに下降していた機嫌はその一言で持ち直したらしく、彼は肩を揺らして少し笑った。 「しかし、それはそれでよいのかもな。 「本気を出したくなったらいつでも言え。 力になってやろう」 それを最後に、最古の王の姿は蕩けるような黄金の砂となって消えた。 朝の空気からは、濃い乳香の匂いがした。 誰かを嫌いなわけじゃない。 ただ、滅びゆくものたちを美しいと思ってしまっただけだ。

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